「ぬいぐるみを抱いていると、なぜか気持ちが落ち着く。でも、大人なのに変かな」。そう感じながら、ぬいぐるみの精神安定やストレス軽減の効果が気になっている方もいるのではないでしょうか。
先にお伝えすると、ぬいぐるみに触れることが気持ちを支える可能性を示した実験はあります。ただし、どれも小さな実験で、ぬいぐるみが病気を治すわけではありません。
この記事では、研究でわかっていることとまだわかっていないこと、抱く・話しかける・抱いて寝るといった使い方、選び方、つらさが続くときの相談先をまとめました。ぬいぐるみとの付き合い方を、自分に合う形で見つけられます。
ぬいぐるみで心が落ち着くのはなぜ?研究でわかること
ぬいぐるみに触れることが精神の安定やストレス軽減を支える可能性は、いくつかの実験で示されています。ただし人数の少ない実験が多く、効果が見られたのも条件がそろった一部の人でした。
ここでは、確かめられていることと、まだ確かめられていないことを分けて紹介します。気分の落ち込みが続くなど病気が心配なときは、ぬいぐるみで様子を見ずに医療機関に相談してください。取り上げる3つの実験の概要は、次の表のとおりです。
| 実験 | 効果が見られた人 | わかったこと |
|---|---|---|
| 抱き枕型の通話機を抱いて話す | 平均63.7歳の健康な女性 | ストレスホルモンが下がった |
| 仲間外れのあとにテディベアに触れる | 仲間外れを体験した人 | 人を助ける行動が増えた |
| テディベアを抱えて質問に答える | 自尊心が低い人 | 身構えた反応が小さかった |
抱いて話すとストレスホルモンが下がった実験
2013年に国際電気通信基礎技術研究所(京都府)などの研究チームが発表した実験では、健康な女性18人(平均63.7歳)を9人ずつ2つの組に分けました。どちらの組も、初対面の相手と15分間、通話で話しています。
人の形をした抱き枕型の通話機を抱いて話した組は、携帯電話型の機器で話した組より、話したあとのコルチゾール(ストレスに関わるホルモン)が、血液でも唾液でも大きく下がっていました。
一方で、本人が答えた気分や落ち着きには、2つの組ではっきりした差は出ていません。9人ずつの小さな実験で、使ったのもぬいぐるみではなく抱き枕型の機器です。
仲間外れのあとにテディベアに触れた実験
2011年に心理学の学術誌に載った研究では、仲間外れにされる体験をしてもらったあと、テディベアに触れる人と、離れて見るだけの人に分けて様子を比べました。
2つの実験のどちらでも、テディベアに触れた人のほうが、人を助ける行動を多くとっていました。2つ目の実験では、触れたことで生まれた前向きな気持ちが、この違いにつながっていたことも示されています。
ただし、仲間外れを体験していない人では、触れても差は出ていません。つらい体験のあとに柔らかい物に触れることが、気持ちを立て直す助けになるかもしれない、という段階の結果です。
効果が見られたのは一部の人だけ
2014年にオランダのアムステルダム自由大学の研究チームが発表した研究では、テディベアを抱えた人と、段ボール箱を抱えた人を比べています。
死を意識させる質問のあと、自分の国や文化をひいきするような身構えた反応が小さかったのは、テディベアを抱えた人のうち自尊心(自分を大切に思う気持ち)が低い人だけでした。自尊心が高い人には、触れることの影響は見られていません。
3つの実験からいえるのは、柔らかい物に触れることが心を支える場面はありそうでも、誰にでも同じように効くわけではない、ということです。落ち着くと感じるなら上手に取り入れ、変化を感じなくても気にしすぎないようにしましょう。
「オキシトシンが出る」はまだ推測の段階
ぬいぐるみを抱くと「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンが出る、という説明をよく目にしませんか。2013年の抱き枕型の通話機の論文も、恋人や夫婦のふれあいでオキシトシンが増えたという先行研究を紹介しています。
ただ、その論文自身はオキシトシンを測っておらず、抱き枕型の機器に触れたときに増えるかもしれない、という推測を書くにとどめています。
ぬいぐるみを抱けばオキシトシンが出る、と言い切れる段階ではありません。「出るかもしれない」くらいに受け止めておくのが正確です。
手放せないぬいぐるみと「移行対象」
小さな子どもが、お気に入りの毛布やぬいぐるみを手放さないことがあります。イギリスの小児科医で精神分析家のウィニコットは、1953年の論文で、こうした物を「移行対象」と名付けました。
大人になってからも、昔からのぬいぐるみを大切にしたり、そばに置いて安心したりする人はいます。ぬいぐるみを大切にすること自体を、恥ずかしいと思って無理にやめる必要はありません。
ただ、ぬいぐるみが手放せないほど不安が強い、外出や仕事に差し支える、といったときは、ひとりで抱え込まずに医療機関や相談窓口に相談してください。
ぬいぐるみセラピーとは?日常でできる3つの使い方

ぬいぐるみセラピー(ぬいぐるみ療法)は、ぬいぐるみを眺める・触る・抱く・話しかけることで気持ちを落ち着けようとする、セルフケアの呼び方として使われることが多い言葉です。病院で受ける治療の代わりにはなりません。
医療や介護の現場では、目的をしぼった使い方もあります。介護施設で人形やぬいぐるみを使うケアは介護でぬいぐるみを使うときの選び方と注意の記事で、小児科で検査や処置の説明にぬいぐるみを使う例は病院のオリジナルぬいぐるみの活用例の記事で紹介しています。ここからは、自宅でひとりでもできる3つの使い方です。
ぬいぐるみを抱きしめる
気持ちがざわついたときは、お気に入りのぬいぐるみを胸の前で抱えて、少しのあいだ静かに過ごしてみましょう。柔らかい手ざわりや重さに意識を向けながら、ゆっくり呼吸してみてください。
先ほどの実験でも、違いが出たのは離れて眺めた人ではなく、実際に触れたり抱えたりした人でした。眺めるだけでなく、手で触れてみるのがポイントです。
ぬいぐるみに話しかける
人に話しにくい気持ちも、ぬいぐるみが相手なら声に出しやすいことがあります。うまくまとまらなくてもかまわないので、今日あったことや感じたことを、そのまま話してみましょう。
声に出してみると、自分が何に困っているのかに気づくこともあります。ただし、ぬいぐるみに話すだけで抱え込まず、信頼できる人や相談窓口にも話してみてくださいね。
ぬいぐるみを抱いて寝る
眠る前にお気に入りのぬいぐるみを抱いて、ほっとする時間をつくる人もいます。厚生労働省の「Good Sleepガイド(ぐっすりガイド)」も、日中のうちにストレスを発散させ、寝る前にリラックスする方法を身につけるようすすめています。
ぬいぐるみを抱くと落ち着けるなら、寝る前のリラックスの方法の一つとして取り入れてみましょう。同じガイドは、寝る前や寝床の中でスマートフォンなどのデジタル機器を使うのは避けるように、とも書いています。
ただし、1歳未満の赤ちゃんの寝床には、ぬいぐるみを置かないでください。こども家庭庁は、ぬいぐるみやタオルなどが窒息のリスクにつながるとして、赤ちゃんのまわりには何も置かないよう呼びかけています。
生活を整えても眠れない状態が続くときは、不眠症などの睡眠障害やうつ病などが隠れていることもあるとして、同じガイドは医師への相談をすすめています。
好みで選ぶぬいぐるみの種類と特徴

どの種類のぬいぐるみで気持ちが落ち着くかに、決まった答えはありません。大切なのは、自分が見て、触って「好きだ」と感じられることです。
代表的な種類と、選ぶときの目安を表にまとめました。
| 種類 | こんな人に |
|---|---|
| 人型 | 話しかける相手がほしい人 |
| 猫型 | 猫が好きでも飼えない人 |
| 犬型 | 犬との思い出を大切にしたい人 |
| くま型 | 定番の抱き心地がほしい人 |
| うさぎ型 | やさしい雰囲気が好きな人 |
人型
人型のぬいぐるみは、人の形に近いぶん、話しかける相手として親しみを持ちやすい種類です。表情がシンプルなものは、その日の気分に合わせて表情を思い浮かべやすいのも特徴です。
猫型
猫型のぬいぐるみには、本物の猫に近い作りのものから、絵本のキャラクターのようなものまであります。
住まいの決まりやアレルギーで猫を飼えない人が、猫と過ごす気分を味わうために選ぶこともあります。
犬型
犬型のぬいぐるみは、耳の形や毛並み、体つきなど、犬種ごとの特徴を再現したものが多い種類です。
以前いっしょに暮らした犬に似たぬいぐるみを、思い出の品として手元に置く人もいます。
くま型
くま型のテディベアは、長い間多くの人々に愛され続けてきた伝統的なぬいぐるみです。
ふわふわの毛並みと抱えやすい形で、子どもから大人まで手に取りやすい定番の種類といえます。
うさぎ型
うさぎ型のぬいぐるみは、長い耳とおだやかな表情が特徴です。寝室に置いて、やさしい雰囲気を楽しみたい人に向いています。
気持ちを落ち着けたいときのぬいぐるみの選び方

毎日そばに置くものなので、見た目だけでなく、大きさ・触り心地・手入れのしやすさまで考えて選びましょう。お店で実物を手に取れるなら、抱えてみてから決めるのがおすすめです。
選ぶ前に、次の5つを確かめておきましょう。
- 見ていてほっとする表情か
- 抱えやすく、置き場所に困らない大きさか
- 肌に当たる生地の手ざわりが心地よいか
- 洗えるか、手入れの方法が分かるか
- 小さな子が使うなら、部品が取れにくいか
使う人の年齢や好みに合ったデザイン
ぬいぐるみは、使う人が「好きだ」と感じられることがいちばん大切です。年齢よりも、その人の好きな動物や色、思い出に合わせて選びましょう。
見ていてほっとする表情
毎日目にするものなので、表情は大切な選ぶ基準です。目や口の形で印象が大きく変わるため、できれば正面から実物の顔を見て選んでください。
抱えやすく置きやすい大きさ
大きさは、どう使うかで決めましょう。抱えて過ごすなら両腕で抱えられる大きさ、机や棚に置くなら手のひらにのる大きさ、持ち歩くならかばんに入る大きさが目安です。
用途ごとの何cmくらいかの目安は、ぬいぐるみのサイズの目安と選び方の記事にまとめています。
触り心地と手入れのしやすさ
肌に当たる生地は、ふわふわの長い毛か、短くなめらかな毛かで手ざわりが大きく違います。毎日触れるものなので、実際に触って心地よいと感じるものを選びましょう。
長くそばに置くなら、手入れの方法も確かめておきましょう。洗えるかどうかは、タグや商品の説明に書かれていればそれに従い、書かれていなければ購入したお店に確かめると安心です。
抱いて寝るなら柔らかさと弾力
抱いて寝るなら、柔らかさに加えて、抱えたときに形が崩れにくい弾力があるものが向いています。寝返りのじゃまにならない大きさかどうかも確かめておきましょう。
ぴったりのものがなければ作る方法も
お店で探しても好みに合うものが見つからないときは、オーダーメイドで作る方法もあります。1個から頼める作家や工房など、依頼先の選び方と費用はぬいぐるみのオーダーメイドの依頼先と費用の記事で比べられます。
つらさが続くときは医療機関や相談窓口へ
ぬいぐるみは気持ちを落ち着ける助けになることはあっても、病気を治すものではありません。気分の落ち込みや眠れない日が続いているなら、ひとりで抱え込まずに相談してください。
うつ病かなと思ったら医療機関に相談する
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」は、うつ病の可能性がある状態を次のように説明しています。一日中気分が落ち込む、何をしても楽しめないといった心の不調とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった体の不調があり、日常生活に大きな支障が出ている状態です。
同じサイトは、うつ病かなと思ったら自己判断をせずに、精神科や心療内科、精神科のクリニックに相談するよう呼びかけています。かかりつけの内科の医師や、保健所・精神保健福祉センターの相談窓口も相談先の一つです。
通院している人は、ぬいぐるみを取り入れたいときも、主治医に相談しながら進めると安心です。
電話やSNSで話を聞いてもらえる窓口
受診するか迷うときや、今のつらさを誰かに聞いてほしいときは、公的な相談窓口も使えます。厚生労働省の「まもろうよ こころ」には、電話やSNSで相談できる窓口がまとめられています。
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
- #いのちSOS 0120-061-338
こころの健康相談統一ダイヤルは通話料がかかり、受け付ける曜日や時間は都道府県ごとに違うので注意してください。#いのちSOSはフリーダイヤルで、毎日24時間受け付けています(いずれも2026年10月時点の厚生労働省の案内)。
この記事で取り上げた種類のぬいぐるみの制作例は、次の商品ページで見られます。
まとめ

ぬいぐるみに触れることが気持ちを支える可能性は、抱き枕型の通話機やテディベアを使った実験で示されています。ただ、どれも小さな実験で効果が見られたのは一部の人に限られ、「オキシトシンが出る」もまだ推測の段階です。
抱く・話しかける・寝る前に抱えるといった使い方で、自分に合うかどうかを試してみてください。気分の落ち込みや眠れない日が続くときは、ぬいぐるみで様子を見ずに医療機関や相談窓口を頼りましょう。
まずは今夜、お気に入りのぬいぐるみを抱えて、ほっとする時間を少しだけつくってみてくださいね。
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